この記事でわかること
- 提示された年収が、額面通りの価値にならないことがある理由
- 女性の転職で年収交渉をする前に確認したい7つの項目
- 希望額の根拠を、生活費以外でどう組み立てるか
- 前職がパート・時短・ブランクだった場合の伝え方
内定の連絡を受けて、提示された年収を見たとき。希望していた金額とほぼ同じなのに、なぜか素直に喜べなかった。そんな経験はありませんか。
その違和感は、気のせいではないかもしれません。同じ「年収400万円」でも、中身の組み方によって、毎月手元に入る金額も、数年後の伸び方も変わります。同じように感じている方は、決して少なくありません。
この記事では、女性の転職で年収交渉をするときに、言い方を考える前に確認しておきたいことを順番に整理します。交渉の上手さよりも先に、提示額を読む力が結果を分けます。
「額面は希望通り」でも要注意|転職の年収交渉で女性がつまずくところ
年収交渉でつまずく原因の多くは、交渉の言い方ではなく、提示額の読み違いにあります。まずはここから確認していきましょう。
半数以上が「想定とのギャップ」を経験している
マイナビ転職が2024年7月から8月にかけて、直近2年以内に転職した20〜50代の会社員800名を対象に行った調査では、転職後に給与面で想定とのギャップがあったと感じた方が半数以上にのぼりました。そのうち「認識していたよりも低かった」と答えた方は4人に1人です。
注目したいのは、ギャップが生じた項目の内訳です。同じ調査で1位になったのは「基本給」で29.6%。次いで賞与の額、賞与の回数と続きます。
ここに、この記事の出発点があります。同じ調査で、求人情報のどの項目を確認したかを聞くと、「基本給」は73.1%で最も多く確認されている項目でした。つまり、多くの方がきちんと見ているつもりの項目で、それでもズレが起きているということです。
なぜ「確認したはず」なのにズレるのか
理由はシンプルで、求人票や提示書に書かれた金額が、いつも同じ意味とは限らないからです。たとえば、次の2つを比べてみてください。どちらも年収400万円です。
| 項目 | Aの場合 | Bの場合 |
|---|---|---|
| 月給 | 25万円 | 33万3千円 |
| 固定残業代 | なし | 30時間分を含む |
| 賞与 | 年2回・計100万円 | なし |
| 年収 | 400万円 | 400万円 |
Aは賞与が業績で変動するリスクがある一方、毎月の基本給は残業代と切り離されています。Bは毎月の入金額が安定して見えますが、その中には残業30時間分の代金が最初から組み込まれています。
残業が少ない月も多い月も金額は変わらず、実際に働いた時間あたりで見ると、Aより低くなる可能性があります。どちらが良い悪いではありません。ただ、この2つを「同じ400万円」として比べてしまうと、判断を誤ります。
内訳を確認する権利は、あなたの側にある
こうした内訳を聞くのは、遠慮すべきことではありません。労働基準法第15条により、企業は労働契約を結ぶ際に、賃金をはじめとする労働条件を明示する義務があります。
固定残業代を採用している場合には、固定残業代を除いた基本給、対象となる時間数と金額、その時間を超えたときに追加の割増賃金を支払うことを明示する必要があるとされています(厚生労働省)。
つまり、「この400万円の内訳を教えていただけますか」という質問は、交渉ではなく確認です。ここを混同してしまうと、聞くこと自体をためらってしまいます。
なお、年収交渉そのものについても、実際には多くの方が行っています。先ほどのマイナビ転職の2024年調査では、転職時に年収交渉を行った方は半数以上で、交渉した方のうち8割以上が給与額を上げることに成功したという結果でした。この調査は男女を含む800名が対象で、女性だけを取り出した数字ではありませんが、交渉が特別な行為ではないことを示す数字といえます。
提示額を分解する7項目|年収交渉の前に確認したいこと
オファーを受け取ったら、金額そのものを見る前に、次の7項目に分解してください。この作業をしてから交渉に入ると、何を相談すべきかが自然に決まります。
- 01基本給
- 02固定残業代の有無と、含まれる時間数
- 03賞与の回数と算定方法
- 04各種手当の種類と支給条件
- 05昇給の仕組みと実績
- 06所定労働時間と時短勤務時の扱い
- 07在宅勤務・勤務地・業務内容の変更の範囲
多いように見えますが、3つのまとまりで捉えると整理しやすくなります。
毎月決まって入るお金を確認する(01・02)
まず確認するのは、基本給と固定残業代です。この2つは切り離して聞いてください。「基本給はおいくらになりますか」「固定残業代は含まれていますか。含まれている場合、何時間分でしょうか」の2つで、毎月の土台が確定します。
賞与や退職金が基本給を基準に算定される会社では、基本給の水準が将来的な受取額にも影響する可能性があります。総額と基本給は、別々に確認するものだと考えてください。
変動するお金の条件を見る(03・04・05)
次に、賞与、手当、昇給の3つです。賞与は「年2回」と書かれていても、金額が固定とは限りません。基本給の何か月分なのか、業績連動なのか、入社初年度は満額出るのかまで確認します。
手当は、支給条件を見ます。住宅手当が「賃貸で世帯主のみ」なら、条件から外れた瞬間に年収が下がります。
昇給は、見落としやすい項目です。同じ調査では、賞与の回数や額を確認した方は3割台にとどまっていました。今の年収が少し低くても、昇給の仕組みが明確な会社のほうが、数年後には上回るケースがあります。
働き方に関わる条件を先に聞く(06・07)
最後は、金額に直接は現れないけれど、実質的な条件を左右する部分です。所定労働時間は、時給換算の分母になります。1日8時間の会社と7時間の会社では、同じ年収でも1時間あたりの価値が変わります。
時短勤務を検討している場合は、時短時にどう減額されるのかも先に聞いておきます。そして2024年4月から、企業が募集をするときの明示事項に「従事すべき業務の変更の範囲」と「就業の場所の変更の範囲」が追加されました(厚生労働省)。
在宅勤務や勤務地を重視して選ぶ場合、今の条件だけでなく、将来変わりうる範囲まで確認できる制度になっています。年収以外の条件を含めて働き方全体を見直したい方は、年収アップの方法を社内・転職・制度の5ルートで整理した記事も参考になります。
年収交渉のコツ|希望額の根拠を組み立てる4ステップ
内訳が見えたら、次は希望額です。ここでのコツは、金額を先に決めないこと。根拠を組み立てた結果として、金額が出てくる順番にします。
- 01
今回の仕事を分解する
職種、業界、担当業務の範囲、必要な経験年数、勤務地、責任の範囲に分けます
- 02
統計で大枠をつかむ
自分の希望額が相場のどのあたりに位置するかを、ざっくり把握します
- 03
応募先の給与レンジを推測する
求人票に書かれた年収の幅が、企業側の想定を知る手がかりになります
- 04
希望・納得・撤退の3ラインを決める
一点に固定せず段階を作ることで、交渉の場で迷わなくなります
ステップ1〜2|仕事を分解し、統計で大枠をつかむ
最初にやるのは、求人票から今回の仕事を要素に分けることです。ここを「事務職」といった大きなくくりのままにすると、比較のしようがありません。
次に、統計で相場の大枠を確認します。国税庁の2024年分民間給与実態統計調査によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は男性587万円、女性333万円でした。この調査は標本給与所得者278,081人を対象としたものです(国税庁)。
ただし、この数字をそのまま希望額の根拠にはできません。職種も役職も勤続年数も違う方が混ざった平均だからです。
この差が生まれる背景には、職種の分布や働き方の違いなど、個人の努力だけでは説明できない要素も含まれています。年収が上がらない理由をあなた個人の問題として片づけない視点を知っておくと、自分の提示額を必要以上に低く見積もらずに済みます。
なお、転職そのものは年収を動かす手段として機能しています。厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、2024年に転職した方のうち、前職より賃金が増加した方は40.5%、減少した方は29.4%でした。また、同省の令和2年転職者実態調査では、転職後に賃金が増加した方の割合は女性41.0%、男性37.5%という結果が出ています。こちらは2020年時点の調査です。
ステップ3|応募先の給与レンジを推測する
ここが、多くの記事で飛ばされる部分です。企業の提示額は、担当者の裁量だけで決まるわけではありません。多くの企業では、ポジションごとに等級があり、等級ごとに給与の幅が決まっています。
求人票に「年収350万円〜480万円」と書かれていたら、それが企業側の想定している採用条件を知る手がかりになります。ただし、求人票の幅がそのまま社内の等級別給与レンジを意味するとは限りません。
それでも、提示額がその幅の下寄りなのか上寄りなのかが分かれば、相談できる余地があるかどうかの見当はつきます。一方、幅を大きく超える金額を求める場合は、金額の調整ではなく採用する等級そのものの判断になることがあり、社内で追加の承認が必要になるケースもあります。今の提示額がレンジのどのあたりなのかを聞くだけでも、交渉できる余地が見えてきます。
ステップ4|3つのラインを決めておく
希望額を一点に固定すると、数万円の差で選択肢を失うことがあります。次の3段階に分けておきましょう。
希望ライン:ここまで届けば迷わず承諾できる金額
納得ライン:在宅や時短など他の条件が整えば承諾できる金額
撤退ライン:これを下回るなら辞退する金額
この3つを先に決めておくと、交渉の場で迷いません。エージェントを使う場合も、「できるだけ上げてほしい」ではなく、この3つの数字と根拠をそのまま伝えたほうが動いてもらいやすくなります。
伝え方は「確認」「相談」「交渉」の3段階で考える
いきなり金額の要求から入る必要はありません。強度を3つに分けて考えます。
確認:「今回のご提示額は、どのような等級や評価をもとに決まったものか伺えますか」
相談:「今回お任せいただく範囲を踏まえて、◯万円程度までご相談できる余地はありますでしょうか」
交渉:「これまでの◯◯の経験と、今回担当する◯◯を踏まえ、◯万円で再度ご検討いただくことは可能でしょうか」
避けたいのは、生活事情を主な根拠にすることです。「教育費がかかるので」という事情は、あなたにとって切実でも、企業が金額を決める判断材料にはなりません。使う根拠は、今回の職責、市場の相場、これまでの実績、担当できる範囲の順に強くなります。
前職がパート・時短・ブランクの女性へ|前職年収を基準にしない伝え方
前職の年収が低いと、そこを基準にされてしまうのではないかと不安になります。ここは、考え方を切り替えられる部分です。
比べているものが違う、と説明する
前職が週4日勤務やパートだった場合、年収が低いのは働いた時間が短かったからであって、仕事の価値が低かったからではありません。
「前職は週4日勤務だったため年収は320万円でしたが、今回はフルタイムで、担当範囲も◯◯まで広がると理解しています。そのため、前職の年収ではなく、今回のお仕事の内容を基準に◯万円程度を希望しています」
このように、条件が違うことを説明します。前職の金額を隠す必要はありません。比較の前提が違うと伝えれば十分です。
ブランクを、自分から減額の理由にしない
育児や介護で離職期間がある場合も同じです。ブランクがあること自体を、金額を下げる理由として自分から差し出す必要はありません。
整理する順番は、離職前に何を担当していたか、そのうち今も使える力は何か、今回の仕事のどこまで担えるか、です。「3年空いているので低くても仕方ありません」ではなく、「◯◯業務を7年担当していました。離職期間はありますが、今回必要とされる◯◯には対応できます」と、仕事の話に戻します。
転職回数や経歴の伝え方に不安がある場合は、転職回数の多さが年代によって評価がどう変わるかと、伝え方の型をまとめた記事も合わせて読んでみてください。
想定ケース|内訳を聞いてから、月給1万円を相談した方
ここで、よくある転職のパターンをもとにした想定ケースを紹介します。実在の個人の事例ではありません。
30代前半、販売職から事務職への転職を目指していた方の例です。第一志望の会社から年収380万円のオファーが出ました。希望していた金額とほぼ同じで、その場では喜んだそうです。
ただ、帰ってから内訳を見て手が止まりました。基本給が前職より低く、固定残業代20時間分が含まれていたのです。総額は希望通りでも、残業がない月の実感は前職より下がる計算でした。
言うべきか、3日ほど迷ったといいます。せっかく決まった内定を、金額の話で壊したくない。その気持ちのほうが強かったからです。
結局、最初にしたのは交渉ではなく質問でした。「基本給の算定根拠と、固定残業代の時間数を教えていただけますか」と、確認だけをメールで送っています。
返ってきた回答をもとに、今度は相談として希望を伝えました。結果は、月給で1万円の増額。希望していた額には届いていません。年収に直すと12万円で、期待していたほどの変化ではありませんでした。
それでも、この方が良かったと感じたのは金額そのものより、入社前に給与の仕組みを理解できたことだったといいます。昇給のタイミングも、賞与の算定方法も、聞いたから分かったことでした。大きく上がった話ではありません。ただ、確認から始めれば、この規模の変化は起こりうるということです。
MOREARIAでは、働き方やキャリアに向き合ってきた女性たちのインタビューを掲載しています。順調に進んだ話だけではなく、迷いながら選んできた過程も含めた物語が、あなたの一歩のヒントになるはずです。
女性の転職と年収交渉に関するよくある質問
最後に、年収交渉について多く聞かれることをまとめました。
年収交渉をすると、内定が取り消されることはありますか?
年収について確認したり相談したりすること自体は、珍しいことではありません。ただし、企業の採用方針や交渉の内容によって対応は異なるため、内定への影響がまったくないとは言い切れません。不安がある場合は、金額の要求ではなく「提示額の内訳を教えていただけますか」という確認から始めると、入社意欲を疑われにくくなります。
年収交渉はいつ切り出すのがよいですか?
最も具体的に話せるのは、条件が提示されたあとのオファー面談です。仕事内容と金額の両方が見えた状態で相談できるためです。ただし、希望額を聞かれた場面では、その時点で幅を持たせて答えておくとミスマッチを防げます。
エージェント経由の場合、年収交渉は任せきりでよいですか?
丸投げは避けたほうがよいでしょう。希望・納得・撤退の3つのラインと、その根拠、年収以外で優先したい条件まで伝えると、交渉の材料が増えます。あわせて、提示額がその企業のレンジのどのあたりかも聞いてみてください。
まとめ|年収交渉は、確認から始めていい
年収交渉で結果を分けるのは、話し方の上手さではなく、提示額を読む力です。最後に、この記事の要点を振り返っておきましょう。
同じ年収額でも、基本給・固定残業代・賞与の組み方で実質は変わる
交渉の前に、提示額を7項目に分解して確認する
希望額は一点ではなく、希望・納得・撤退の3ラインで決める
前職がパート・時短・ブランクでも、基準は今回の仕事内容に置く
今日できることは、手元にあるオファーの書類を開いて、基本給と固定残業代の欄に印をつけてみることです。そこから始めれば、聞くべきことは自然に見えてきます。あなたが納得して選べる一歩を、応援しています。
SUPERVISED BY
akina
MOREARIA Inc. 代表 / MOREARIA編集長
MOREARIA編集長。「やりたいことはあるけど、踏み出せない」女性に向けて、挑戦する人たちのリアルな物語と、自分らしい一歩を考えるきっかけを届けるメディアを運営。マーケティング支援事業や実践型スクール「MOREARIA LAB」も展開している。
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