この記事でわかること
- 「自分らしいキャリア」が、自分の内側だけでは決まらない理由
- 同じ人でも、相手や環境が変われば現れ方が変わるということ
- 「私は○○な人間だ」を、確かめられる形に書き換える方法
- 仮説が外れたときに、実は何が進んでいるのか
自分らしいキャリアの見つけ方を調べると、まず出てくるのは自己分析です。価値観を書き出し、強みを整理する。その順番そのものは、間違っていません。それでも決まらないとしたら、探している場所が自分の内側だけに限られているからかもしれません。
この記事では、いま行き詰まっている場所を三つに分けて見ていきます。仕事の中身が合わないのか、働く環境が合わないのか、それとも自分の状況のほうが変わったのか。同じ「自分らしくない」でも、どこで詰まっているかによって、次に確かめる場所は変わります。
一般的な答えは、あなたが火曜の午後に誰とどんな話をしているかを知りません。この記事を読み終えるころには、「私は○○な人間だ」という説明を「○○という状況では、私は○○できた」という形に書き換えた紙が、あなたの手元に一枚できています。急がなくて大丈夫です。
「自分らしいキャリア」は、自分の内側だけを探しても出てこない
自分らしいキャリアとは、何を指すのでしょうか。この記事では、性格や強みだけで決まるものではなく、自分が大切にしたいことと、仕事の内容・人間関係・裁量・働く場所といった環境とが噛み合っている状態を、自分で選び直していくキャリアとして捉えます。学術的に一つに定まった定義があるわけではありません。
自分らしいキャリアが分からないとき、多くの人はもっと深く自分を知ろうとします。けれど掘る場所が内側だけに限られていると、掘るほど同じところを回ることになります。この章では、なぜ内側だけでは決まらないのかを整理します。
探し方が足りないのではなく、探している場所が限られている
「自分らしさ」は、あなたの中に埋まっている固定の答えのように語られがちです。性格、価値観、強み。どれも自分の内側にあるものとして扱われます。
けれど、実際に「自分らしく働けた」と感じた場面を思い出してみてください。そこには必ず、あなた以外のものが写り込んでいるはずです。
- 01
誰と一緒だったか
任せてくれた上司なのか、反応を返してくれた相手なのか。同じ仕事でも、隣にいる人が違えば手応えは変わります。
- 02
何を自分で決められたか
進め方、順番、伝え方。どこまでを自分で決められたかは、あなたの性格ではなく、その仕事の設計で決まっています。
- 03
どんな時間と場所だったか
静かに集中できた朝なのか、常に声がかかる場所なのか。ここは診断にも求人票にも出てきませんが、確実に影響します。
つまり「自分らしさ」は、あなた一人の属性ではなく、あなたと状況が組み合わさったときに現れるものです。内側だけをいくら掘っても答えが出ないのは、片方しか見ていないからです。
この見方は、思いつきではありません。組織心理学には「個人と環境の適合(Person–Environment Fit)」という研究領域があります。アムステルダム大学のAnnelies E.M. van Vianen氏が2018年にまとめたレビュー論文では、この理論の第一の原則として、人と環境を合わせて見たほうが、どちらか一方だけを見るよりも人の行動をうまく説明できる、と整理されています。
ただし同じ論文は、適合の度合いがどこまで結果を説明できるかについては、研究によって結果がばらついているとも述べています。確定した答えがあるわけではありません。それでも、「自分だけを見ても足りない」という出発点には、こうした積み重ねがあります。
法律にある「職業生活設計」も、目的は「自ら定める」もの
意外に思われるかもしれませんが、キャリアを自分で考えることについては、法律に定義があります。
厚生労働省の職業能力開発促進法では、第2条第4項で「職業生活設計」という言葉を定めています。そこで書かれているのは、自分の長期にわたる職業生活について、職業に関する目的を自ら定めるということです。
この定義が扱っているのは、あくまで「職業生活設計」です。「自分らしいキャリアとは何か」を法律が決めているわけではありません。それでも、職業上の目的は「自ら定める」ものとされている点は、覚えておく価値があります。
この違いは小さく見えて、負担を大きく変えます。見つけるべき正解があると思っている限り、見つからない自分を責めることになります。決めるものだと分かっていれば、今日の材料で仮に決めて、後から変えることができます。
言葉にできていても、比べる相手が変われば迷いは戻る
自分の希望を言葉にできれば迷いが消えるかというと、そうとも限りません。
noteに「20代で転職してよかったこと・後悔したこと」という投稿があります。書いたのは、20代後半でSIerから社内SEへ転職した女性です。前職に違和感を持ちながらも自分の力不足だと受け止め続け、そのうえで自分なりの優先順位を整理して転職した方です。
ところが転職後、また悩みが戻ってきます。前職と現職を比べてしまうのです。しかもその比較の物差しが、会社の知名度や、世間が抱く年収のイメージになっていました。ご本人は、夫からの指摘をきっかけに、自分が他者の評価を気にしていたことに気づいたと書いています。
言語化に失敗したのではありません。条件は言葉にできたのに、判定する物差しだけが外から入ってきた状態です。そもそも自分の基準が持てないと感じているなら、その感覚がどこから来ているのかを扱った自分軸がないと感じる女性の仕事の考え方も参考になります。
同じ人でも、環境が変わればあなたの現れ方は変わる
前の章では、自分らしさが自分と状況の組み合わせで現れることを見ました。ここではその実際を、三つの角度から確かめます。仕事の中身、経験の使い方、そして状況の変化です。
仕事内容が好きでも、続けられないことがある
noteに「30代からの転職迷走記」という投稿があります。書いたのはイトウユキコさんという、名古屋を拠点にライターとして活動している方です。
この方は、学んだWebの知識を活かせるオンラインショップ運営の仕事に転職しました。仕事の内容自体は好きだったと書かれています。それでも、その職場を辞めることになりました。
理由は、仕事の中身ではありませんでした。人間関係のストレス、終わりの見えない残業、そして常に複数の音が混ざり合うオフィス環境。とくに音については、後から自分がそういう環境を苦手とする体質らしいと気づいた、と記されています。
これは示唆的です。「音の少ない環境で働けること」は、性格診断にも、価値観のワークシートにも、まず出てきません。求人票にも書かれていません。それでも、この方が続けられるかどうかを決めた条件でした。
つまり、あなたが自分らしく働けるかを左右する条件の一部は、その環境に入って初めて分かります。
「やりたいことが分からない」人が、すでに持っている材料
同じくnoteに、しずさんという37歳の女性が書いた自己紹介の投稿があります。技術系の派遣を経てメーカーの開発職で9年働き、36歳でWebマーケティング職に転職した方です。
この方は、転職を決めたときの心境をこう振り返っています。好きなことややりたいことが分かった確信はなかったけれど、「少なくともこの場所じゃないな」と感じた、と。
やりたいことは分からない。けれど、合わないことははっきりしていました。投稿の中では、自分の苦手なこととして、込み入った技術的な議論と、社内外の折衝が具体的に挙げられています。
材料がないのではなく、プラスの側だけを材料だと思っているために見えていないだけです。「何が嫌だったか」は、「何がしたいか」より正確に思い出せます。議論が中心の仕事なのか、調整が多い役割なのか。これらは、次の仕事を見るときに確かめられる形をしています。
条件がいくつか出てきたら、それを並べて比べる段階に進めます。転職も異動も副業も今の仕事も同じ表に載せる方法は、キャリアの軸を選択肢の比べ方から考える記事にまとめています。
状況が変われば、答えのほうも動く
自分らしさが状況との組み合わせなら、状況が変わったときに答えが動くのは当然です。数字にも、その動きは表れています。
内閣府男女共同参画局の令和6年度「仕事と生活の調和推進のための調査研究」では、育児休業を取得する前に描いていたキャリアプランと、現在および今後の展望との変化が聞かれています。調査は令和7年1月に、インターネットで実施されました。
育児休業のあとに正社員・正職員として復帰した女性1,523人のうち、43.6%が「当初描いていたキャリアプランよりもキャリアをセーブすることになった、またはなりそう」と回答しています。これは女性で最も多い回答でした。同じ設問で、男性は「ほぼ育児休業取得前に描いていたプランどおり」が47.6%で最多でした。
この調査の対象は、育児休業を取得した経験のある方に限られています。ですから、働く女性全体の傾向として読むことはできません。
それでも読み取れることがあります。同じ人が、同じ能力を持ったまま、置かれた状況が変わったことで見通しのほうが変わっている。これは、その人の自分らしさが失われたという話ではありません。自分らしさが、環境との関係の中にあることの表れです。
探すのをやめて、仮説として置き直す
ここからは、考え方を実際の作業に変えます。やることは一つだけです。自分についての説明を、確かめられる形に書き換えます。
「私は○○な人」を、確かめられる形に書き換える
紙を一枚用意して、自分について思っていることを三つほど書いてみてください。「私は人見知りだ」「私は飽きっぽい」「私は責任感が強い」。どんなものでも構いません。そのうえで、次の順番で書き換えます。以下は、この記事を読みやすくするために編集部が整理した書き方で、何かの検査や公的な基準ではありません。
- 01
そう感じた場面を一つ思い出す
「人見知りだ」と思ったのは、いつのどんな場面だったか。人数、相手、話した内容まで具体的に書きます。
- 02
できた場面のほうも探す
同じ性質でも、うまくいった場面が必ずあります。「二人での打ち合わせでは自分から質問できた」のように書き添えます。
- 03
状況を含んだ一文にまとめる
「私は人見知りだ」を「初対面が四人以上の場では話せなかったが、二人での打ち合わせでは自分から質問できた」に置き換えます。
HINT
書き換えた一文を、面談で聞ける質問に直してみる
「私は人見知りだ」は、求人票を見ても判定できません。けれど「初対面の相手と一対一で話す機会は、どのくらいありますか」なら聞けます。あなたの三つの文は、どんな質問に変わるでしょうか。
書き換えたあと、二つのことが起きます。一つは、自分を決めつけずに済むことです。人見知りかどうかではなく、どんな場面なら話せるかという話に変わります。
もう一つは、確かめられるようになることです。三つ書き換えられたら、この作業はいったん終わりで構いません。全部を書き換える必要はありません。
他人の言葉は、ノイズにも発見にもなる
自分らしさを考えるとき、「他人と比べない」という助言をよく見かけます。ただ、先ほどの二つの投稿を並べると、そう単純でもないことが分かります。
20代後半の女性の投稿では、会社の知名度という外の物差しが判断を狂わせていました。他者の基準が、借り物として入り込んだ例です。
一方で37歳の女性の投稿では、何人ものエージェントと面談する中で、転職を勧めるのではなく一度休むという選択肢を示した人がいました。その担当者自身の働き方を聞いたことで、考えられる選択肢が広がったと書かれています。こちらは、自分では見えていなかった条件に他者が気づかせた例です。
同じ「他人の言葉」でも働き方が正反対です。遮断するかどうかではなく、聞いたあとの自分の反応を見るほうが役に立ちます。その話を聞いて、うらやましいと思ったのか。それとも、自分には向かないと感じたのか。反応そのものが、あなたの条件を教えてくれます。
仮説が外れた日が、いちばん進んでいる
書き換えた文は、結論ではなく仮説です。だから外れます。「一人で集中できる環境が合う」と考えて転職したら、思ったより人と話したくなった。そういうことは起こります。
けれど、外れたときにあなたが得ているものは、外れる前より多いはずです。行動する前には見えなかった条件が、一つ分かったからです。
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」では、向上させたい能力やスキルがあると答えた女性の正社員のうち、最も多かったのは「課題解決」で36.3%でした。抽象的な自分らしさではなく、具体的な能力の名前が挙がっています。
この調査は「自分らしさを言葉にできるか」を聞いたものではありません。それでも、抽象的な「自分らしさ」とは別に、具体的な能力やスキルについてなら、これだけの回答が集まっているという事実は残ります。
必要なのは、もっと深い内省ではないのかもしれません。言える言葉で仮に決め、外れたら書き換える。その往復のほうが早く進みます。
MOREARIAでは、迷いながら選び、選び直してきた女性たちのインタビューを掲載しています。どこで立ち止まり、何を手放し、どんな環境でようやく自分らしくいられたのか。その過程が書かれた物語は、あなたが自分の仮説を立てるときのヒントになるはずです。
自分らしいキャリアに関するよくある質問
考えを進める途中で出てきやすい疑問を、三つ取り上げます。
自分らしいキャリアは、いつか見つかるものですか?
見つけるものというより、決めて確かめていくものだと考えています。職業能力開発促進法の「職業生活設計」でも、職業上の目的は自ら定めるものとされています。今の材料で仮に決めて、合わなければ書き換えて構いません。
環境のせいにしているだけではないでしょうか?
環境を条件として扱うことと、環境のせいにすることは違います。「音が多い場所では集中できなかった」は、責任の話ではなく、次の職場で確かめる項目です。事実として書き出せたなら、それはもう判断材料になっています。
自分らしい働き方とは、何が違うのですか?
この記事で扱ったキャリアは、仕事の中身や積み上がっていくものを指します。働き方は、勤務時間や場所、雇用形態といった条件のことです。重なる部分はありますが、確かめる場所が違うので、分けて考えたほうが整理しやすくなります。
まとめ|自分らしさは、あなたと環境のあいだに現れる
自分らしいキャリアが分からないのは、あなたの内省が足りないからではありません。探す場所が、内側だけに限られていたのかもしれません。最後に、この記事の要点を振り返っておきましょう。
「自分らしさ」は本人の属性ではなく、本人と状況が組み合わさったときに現れる
法律上の「職業生活設計」でも、職業上の目的は自ら定めるものとされている
やりたいことが分からなくても、合わなかったことは条件として使える
「私は○○な人」を「○○な状況では○○できた」に書き換えると、確かめられる
今日できるのは、大きな決断ではありません。紙を一枚用意して、自分についての説明を三つ書き、状況を含んだ形に書き換えてみる。書き換えた三つが合っているかどうかは、まだ分からなくて構いません。分からないまま置いておけることも、確かな前進です。あなたの心地よい一歩を、応援しています。
参考資料
- 厚生労働省「職業能力開発促進法」
- 内閣府男女共同参画局「令和6年度 仕事と生活の調和推進のための調査研究~キャリア形成と育児等の両立を阻害する要因に関する調査~」
- 厚生労働省「令和7年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」(2026年7月31日)
- Annelies E.M. van Vianen「Person–Environment Fit: A Review of Its Basic Tenets」Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior 第5巻75-101頁(2018年1月21日)
- note「20代で転職してよかったこと・後悔したこと」(2026年8月13日)
- note イトウユキコ|夕凪舎「30代からの転職迷走記~失敗の先に見つけた自分らしい働き方」(2024年5月1日)
- note しず「自己紹介|派遣→元メーカー女性エンジニア|36歳でWeb業界に未経験転職」(2025年7月26日)
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MOREARIA 代表 / 編集長
MOREARIA編集長。「やりたいことはあるけど、踏み出せない」女性に向けて、挑戦する人たちのリアルな物語と、自分らしい一歩を考えるきっかけを届けるメディアを運営。マーケティング支援事業や実践型スクール「MOREARIA LAB」も展開している。
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