この記事の要点
元OSK日本歌劇団の娘役として夢を叶えた千原輝子さん。退団後は「資格がない」「肩書きがない」という壁に何度もぶつかりながら、エステ・心理学・香りのセッションを組み合わせた独自のスタイルを築き上げた。コロナ禍で収入の手段がすべて消え、夫婦の危機も経験した。それでも「なんとかなる」と前を向き続けた原動力は、「その人の本音を引き出したい」という揺るがない使命感だった。自信が持てない、肩書きが定まらない、やりたいことがあるのに踏み出せない——そんな人へ、千原さんの生き方が静かにエールを届ける。
画面に映った千原輝子さんは、話し始める前から笑顔だった。声は落ち着いていて、でも温かい。長年舞台に立ってきた人ならではの、言葉の一つひとつに品が宿るような話し方。「この人のそばにいると、自然と背筋が伸びるんだろうな」と、画面越しに感じた。
千原輝子さん。大阪在住。元OSK日本歌劇団の娘役出身で、退団を機に仕事を一から作り上げ、現在は香りのセッション・エステ・スクールを組み合わせた独自の形で、働き方や生き方に迷う人を支援している。自分らしい仕事の形をずっと探し続けてきた彼女は、そのプロセスそのものが、今の仕事の一番の説得力になっている。
夢の舞台を降りた先に、待ち受けていた現実
小学6年生の文集に書いた夢
「OSK日本歌劇団の娘役になる」——千原さんが卒業文集にそう書いたのは、小学6年生のときのことだ。ただの憧れではなく、決意として書いた言葉だった。そしてその言葉通り、プロの舞台の世界へと進んでいく。

「後から見たらシンデレラストーリーなんですけど、実際にプロの世界に入ってしまうと、女の世界なので。引っ張り合いもあれば、いろんな理不尽なこともあって、理想だけではいかないわけじゃないですか」
夢の世界に入って初めて見えるものがある。華やかな舞台の裏にある競争と理不尽、理想と現実のギャップ。それでも千原さんは舞台に立ち続けた。そして結婚を機に、いわゆる「寿退団」で舞台を降りることを選ぶ。
「なんで私がこの人に教えてもらわなきゃいけないんだ」——最初の大きな壁
退団後、結婚してすぐに「何かやりたい」という気持ちが芽生えた。ジャズダンスを教えたい。でも、そこに思わぬ壁があった。資格がない。だから、自分より技術のない人から教わらなければならない。
「私はプロとしてやってたのに、資格を持っていないから、自分より下手な人に教えてもらわないといけないわけですよ。舞台経験としては一流ではない人たちに何か教えてもらわないといけないっていうのが、私の中ではすごい葛藤だった」
実力があっても、資格がなければ認められない。人脈もなければ、そもそも始まらない。舞台を離れ、新しい仕事を築こうとする女性が直面する、リアルな壁がそこにあった。それでも千原さんは、諦めなかった。
ワンコインの親子体操から、5つの教室へ
動いたのは、ママ友たちだった
悩んでいた千原さんを最初に動かしたのは、意外にも周りのママ友たちだった。ある日、こんなふうに声をかけてもらった。「ダイエットしたいし、子どもたちも踊らせたいから、親子体操教えてほしい」と。場所はマンションの集会所、1回ずつの単発制、お母さん1人ワンコイン。「営業は絶対できない」と思っていた千原さんだったが、「私たちが友達を連れてくる」という言葉に背中を押され、動き出した。
「口コミが口コミを呼ぶってこういうことなんだっていうぐらい。みんながね、公園でチラシを配ってくれるんですよ」
あっという間に5教室へ拡大した。強みは誰かが売り込んでくれるものではなく、「必要とされること」から始まるのだと、この経験が教えてくれた。
「顔だけ綺麗にしても、変わらない」——女性の自信と内面を整える仕事へ
千原さんの教室では、子どもたちに舞台に立つ機会を作っていた。舞台の上では、どの子も驚くほど輝いた。でも成長とともに塾や他の習い事が増え、教室を去っていく子が増えた。舞台に立つ機会がなくなると、あの輝きはすっと消えてしまう。どうしたらこの子たちが素直なまま育っていけるんだろう——。辿り着いた答えは、「お母さんだ」ということだった。子どもは舞台という場があれば輝ける。でも、毎日そばにいるお母さん自身が変わらなければ、その輝きは続かない。お母さんの内側に働きかける何かが必要だと感じていたちょうどそのとき、「エステを一緒に学びに行かない?」と誘いを受けた。
もともと舞台化粧が中心で、普段のスキンケアはほとんど知らなかった。肌もボロボロだった。せっかくなら自分のためにも、と学び始めると、みるみる肌が変わっていく。その手応えが嬉しくて、気づいたらメイクコンテストにまで出ていた。そして——優勝してしまった。
喜んで、親子体操で関わってきたお母さんたちに施術してみると、みるみる顔が変わっていく。特に眉毛が得意で、「眉毛はお顔の額縁」という持論を持つ千原さんの手にかかると、みんなが見違えた。でも、そこで思わぬ言葉をもらう。「こんなに美しくなったのに、なんか恥ずかしい」——。
「顔だけ綺麗になっても、やっぱりメンタルが整ってないと意味がない。表面だけじゃなくて、ちゃんと中身も整えてあげないと無理なんだっていうところから心理学になったんです」
心理学を学ぶ中で気づいたのは、「結局、決めるのも解決するのも自分でしかない」ということだった。外側の見た目と内側のメンタル、両方からアプローチする——それが、女性が本当の自信を取り戻すために必要なことであり、今の千原さんのスタイルの原点だ。
コロナ禍でゼロになった。夫婦の危機も来た。それでも「なんとかなる」と思った
収入の手段がすべて消えた
転換点は突然やってきた。コロナ禍。エステの仕事は一切なくなり、舞台監督をしていたご主人のイベント業も消えた。収入の手段がすべて消えた中で、千原さんは動き始める。コミュニティに入り、毎日10分だけYouTubeで話し続けた。97本。ノーカットで。自分で字幕をつけていくうちに、客観的に気づいたことがある。
「私やっぱり心の部分をすごい大切にしてるんだなって、自分で客観的に気づいたんですよ」
それまでバラバラに見えていたエステ・ダンス・心理学・香り——すべては「その人の本音を引き出すこと」につながっていた。千原さんはそこで、自分の仕事の軸が見えた。
「離婚しよう」と思った。でも、本音を聞いたら変わった

コロナ禍は仕事だけでなく、夫婦関係にも影を落とした。先が見えない日々が続く中で、千原さんの中に「この結婚、続けていく意味があるのかな」という気持ちが生まれ始めた。千原さんの心がそこに向かい始めたとき、不思議なことが起きた。弟も、父も、同じように「離婚しようかな」と言い始めたのだ。なぜかはわからない。でもその連鎖に気づいたとき、はっとした。「私がこんなことを言っている場合じゃない」と。覚悟を決めて、ご主人に本音を聞いた。嫌がられながらも、話し合った。
「本音を聞くとね、もう不器用ですけど、実は私のことを本当に応援してるんだなっていうのがわかって。本音を言い合えるっていうのはすごい大事だし、言わないとわかんないことってすごいあるので」
言葉にしなければ伝わらない。この体験が、今の仕事の核心と重なっている。
香りが、言葉にできなかった本音を引き出す
「好き」「嫌い」それだけでいい
千原さんが今メインとして行っている「香りのセッション」は、珍しいアロマの調合ではない。あらかじめ決められた10種類の香りをかいでもらい、「好き」「嫌い」「わからない」という反応を丁寧に掘り下げていく。香りは記憶に直結するから、一つの香りが昔の情景を呼び起こし、そこに眠っていた感情が自然と出てくる。
「自分の思考はみんなわからないって言うんですけども、実は自分で操ることができるし、自分で思い描くとその通りに行くんですよっていうのを、この香りのセッションを通して気づかせていく」
そしてその気づきの後、もう一度同じ香りをかぐと、香り方が変わる。目に見えない内側の変化が、香りという形で確かに現れる。

女性経営者ほど「女性らしい香り」が嫌いな理由
特に印象的なのが、女性経営者への観察だ。10本のうち、フローラルな香りを「嫌い」と答える傾向がある。
「自分が女性であるっていうところをなくして男性と戦ってる人が多いんですよ。そこを紐解いて紐解いてやっていくと、なんかお花の香りがわかりますって変わっていく」
自分の中の「女性らしさ」を封印して頑張ってきた人ほど、香りに正直に反応する。そして、そこに気づいた瞬間に、香り方が変わる。千原さんのセッションはその一瞬を、丁寧に引き出していく仕事だ。
自信がないのではない。理想の自分と今の自分に、まだ距離があるだけ
鎧を外すことが、最初の一歩
千原さんのところに来るお客さんたちは、一見「自信がない」ように見える。でも千原さんの見立ては違う。
「自信があるから、その通りになれてない自分に対して自信がない。だから自分の殻を破れって私はいつも言うんです。そんな鎧はいらないって」
自信がないのではなく、なりたい自分がはっきりしているから、今の自分との距離が苦しい。その視点を知っておくだけで、少し自分に優しくなれる気がする。
「肩書き」への葛藤——私はいったい何者なんだろう
エステティシャンでもない。コーチングでもない。心理士でもない。「そんな小さいところで固めないで」と思いながら、でも世間はカテゴリを求めてくる。それはOSK時代から続く葛藤でもあった。宝塚と比べられ続け、自分の立ち位置がはっきりしないまま走り続けてきた。
「だってそんな小さい肩書きで収まるところじゃないじゃないですか。大谷翔平じゃないですけれども、”千原輝子”っていう一つのブランドになりたい」
自分という名前そのものを、肩書きにしたい。その言葉に、千原さんの野心と覚悟が滲んでいた。
大切にしている言葉——「美しく立ち、美しく歩き、美しくはなす」
千原さんが会社の理念として定めた言葉がある。ある日、「何か書いてください」と言われたときに、ふっと口をついて出てきた言葉だという。
「美しく立ち、美しく歩き、美しくはなす」

舞台に立ち続けてきた千原さんだからこそ生まれた言葉だと思った。美しく立つとは地に足をつけること、美しく歩くとは動き続けること。そして「話す」だけを平仮名にしているのは、声で話すことと、自立して「話す」(放す=手放す)ことの両方を意味しているからだ。自分の本音をストレートに言葉にする——それが千原さんの言う「美しく話す」だ。
「この三つが本当にできると、どんな人生もうまくいくなって思ってて」
自分を一言で表すと——「女神」
インタビューの最後、自分を一言で表してもらった。少し間を置いてから、千原さんはこう答えた。
「少し大きな言葉ですけれど——女神、だと思っています」
笑いながら、でも迷いなく。男性経営者のセッション中、その人の本音が溢れ出て言葉も感情もすべて解き放たれた瞬間に、自分がただそこに在るような感覚になることがあるという。上から見守るような、包み込むような——。
「なんかこの物体にあるあなたのこの魂をどう磨きますかみたいなところだったりするので、そういう意味での女神様。男性とか女性とか、そもそも人間っていうものを人間として見てないというか」
性別も年齢も関係なく、その人の魂に向き合う。それが千原さんの仕事の本質だ。
今、立ち止まっているあなたへ
インタビューの最後に、今まさに悩んでいる人へのメッセージを聞いた。
「頑張らなくていいよって。今のまんまで十分って。今の自分の一番素敵なところをちゃんと見てって。本当にあるからって」
自信がない、お金がない、人脈がない——そう感じて立ち止まっている人に、千原さんはこう言う。「ないもの尽くしに見えても、積み上げていくしかないんです」と。そしてこう続ける。「みんな肩に力を入れすぎ。いらないエネルギーを使わないで」と。やりたいことがあるのに踏み出せない人へのメッセージも、シンプルだった。
「その夢をどんどん周りに発信していくしかない」
夢は、言葉にしたその瞬間から、動き始める。
まとめ|本音を引き出す仕事と、揺るがない軸

取材を終えて、千原輝子さんのことを思う。元娘役、親子体操教室の先生、エステティシャン、心理学、香りのセッション——それらはすべてバラバラに見えて、実は一本の線でつながっている。「その人の本音を引き出したい」という、ずっと変わらない軸がそこにある。
資格もなかった。肩書きも定まらなかった。コロナで収入の手段がすべて消えた。夫婦の危機もあった。それでも千原さんは「なんとかなる」と思い続けてきた。その言葉は楽観ではなく、何度も壁にぶつかってきた人だけが持てる、静かな確信だと思った。
「今のままで十分。素敵なところは、ちゃんと自分の中にあるから。ただ、自分では見えていないだけ」
自分が何者かわからなくて、やりたいことがあるのに一歩踏み出せなくて、このままでいいのかなと思っている——そんな人に、今日のこの言葉をそっと届けたい。
INTERVIEW

千原 輝子
株式会社SHAON 代表取締役
株式会社SHAON代表取締役。OSK日本歌劇団員として舞台に立った後、エステ・ヘアメイク・香り・声のセッションなど多彩な領域で女性たちと向き合ってきた。2021年に株式会社SHAONを設立し、女性が「自分らしさ」を表現するための自己変容プログラムや内面設計を主宰している。
@teruko_chiharaMorearia
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