この記事でわかること
- 職業能力開発促進法が労働者に求めていることと、求めていないことの線引き
- 女性正社員の38.1%が「わからない」と答えた調査の中身と、企業側の回答との対応
- 続く・途切れる・戻るを、担当業務・評価面談・研修機会の3点で見分ける方法
- 判定のあとに会社へ確認できることと、仕事から離れる期間があっても使える制度
「キャリア形成」と検索すると、上位に並ぶのは企業の人事担当者向けの解説記事か、行政の支援制度の案内ページです。自分のことを調べにきたはずなのに、いつのまにか「会社が社員に何をすべきか」という話を読んでいた。そんな感覚になった方もいるかもしれません。
仕事と育児の両立が、中長期的なキャリア形成にどう影響するか。厚生労働省の委託調査でこの問いに答えた女性正社員1,000人のうち、最も多かった回答は「わからない」で38.1%でした。「マイナスに影響する」の24.8%を上回っています。
この記事では、キャリア形成を年代で区切りません。「続いている」「途切れかけている」「戻ろうとしている」という3つの局面で捉え直します。読み終えたときに、いま自分がどこにいるかを、担当業務・評価面談・研修対象という3点で確かめられる状態を目指します。
「キャリア形成」は、行政が使っている言葉です
キャリアデザイン、キャリアプラン、キャリア形成。似た言葉が並んでいて、違いが分かりにくいと感じるかもしれません。実際、この3つは意味がきれいに分かれているわけではなく、書き手によって使い方が変わります。
ただし、法令の条文に置かれている言葉は限られています。職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第2条第4項は、「職業生活設計」を、労働者が自らの職業生活の目標を定め、その目標の実現に必要な職業能力の開発や向上の措置を自ら選択することを内容とする、という趣旨で定義しています。
一方、「キャリアデザイン」という語は法令に見当たりません。「キャリア形成」は条文の定義語ではありませんが、行政文書では繰り返し使われています。第12次職業能力開発基本計画(令和8年3月31日厚生労働省告示第169号、計画期間は令和8年度から令和12年度)が、その代表です。
「キャリア形成」は法令上の定義語ではありませんが、行政文書や企業の人材育成の文脈で広く使われている言葉です。検索したときに人事向けの記事ばかり出てくるのは、そのためです。
ここで一つ、誤解しやすい点があります。同じ法律のなかでも、条文ごとに主語と語尾が違います。誰に向けた条文なのかを取り違えると、意味が変わります。
- 01
第3条の3|主語は「労働者」
労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めるものとする、という趣旨の条文です。平成27年の改正で加わりました。語尾は「努めるものとする」で、努力義務にあたります。
- 02
第4条|主語は「事業主」と「国・都道府県」
語尾は「努めなければならない」です。事業主に対して、雇用する労働者の職業能力の開発と向上の促進に努めることを求めています。個人に向けた条文ではありません。
- 03
第10条の3|「必要に応じ、……するものとする」
こちらも事業主に向けた規定です。「必要に応じ」一定の措置を講じることにより、労働者が自ら職業能力の開発および向上を図ることを促進するものとしています。
整理すると、こうなります。労働者が職業生活設計を行い、自発的な能力開発に努めることは、法律のなかに位置づけられています。ただしそれは努力義務であり、キャリア形成の達成そのものを個人に課したものではありません。そして、ここで取り上げた第4条と第10条の3は、労働者本人ではなく事業主などに向けた規定です。
条文の語尾を並べて主語を確かめる、というこの読み方は、行政が示した解釈ではなく、編集部が条文から整理したものです。
この記事の判定は、記憶だけでも進められます。ただ精度を上げたいときは、直近1年の評価面談のメモか、人事評価シートを1枚だけ手元に出してください。なければ、今年の面談で上司から言われたことを、思い出せる範囲で3行書き出すだけで足ります。
「わからない」が最も多い、という調査結果
先ほど触れた38.1%は、厚生労働省の委託調査「令和7年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」で得られた数字です。回答したのは、過去10年以内に離職経験がなく、調査時点で小学校4年生未満の子を育てている20代から50代の女性正社員1,000人。インターネット調査会社のモニターに対する割付調査なので、日本の女性全体を無作為に抽出したものではありません。
- 01
わからない 38.1%
最も多い回答です。両立がキャリア形成にどう影響するか、判定できずにいる状態を表しています。
- 02
影響しない 28.5%
両立とキャリア形成を、切り離して捉えている回答です。
- 03
マイナスに影響する 24.8%
「わからない」より少ない回答でした。
- 04
プラスに影響する 8.6%
両立を経たことが、キャリア形成にとって前向きに働くと捉えている回答です。
NOTE
この調査は、厚生労働省の委託により2025年12月2日から12月10日にかけて実施され、令和8年3月に報告書が公表されたものです。記事内の数値は、この報告書にもとづいています。
注目したいのは、「マイナス」より「わからない」のほうが多いことです。キャリアが損なわれたと確信している人より、判定できずにいる人のほうが多い。この構図は、同じ調査の企業側の結果と並べると見え方が変わります。
同じ事業では、企業に対しても調査が行われました。全国の従業員51人以上の企業5,000社に配付し、765社から回答を得ています(集計は企業規模の全国分布に合わせて重み付けされています)。育児のための短時間勤務制度や所定外労働の制限を利用する正規労働者に対し、キャリア形成のための取組・支援として行っていることを尋ねた設問では、次の結果でした。
制度利用者本人と上司・人事部門等との面談 36.9%
希望に応じて早期にフルタイム勤務へ復帰できるよう支援 33.5%
育児との両立やキャリア形成に関する相談窓口の設置 20.7%
時間あたりの成果による人事評価を実施 17.3%
特に何もしていない 28.4%
面談を行っている企業が36.9%、何もしていない企業が28.4%。相談窓口があるのは20.7%です。
働く側の「わからない」と、会社側の「特に何もしていない」。ここで一つ、はっきりさせておきます。この2つは、同じ人と同じ会社を対応させて調べた数字ではありません。労働者調査と企業調査は別々に行われているため、一方が他方の原因だと示すものではありません。
そのうえで、この2つは無関係ではないだろう、というのが編集部の受け止めです。自分のキャリアがどう扱われているか分からないのは、感度が鈍いからではなく、説明を受け取る場面がそもそも用意されていない可能性があります。
第12次職業能力開発基本計画も、労働者個人が単独でキャリアを考えることが難しくなってきていると記しています。行政文書がそう書いているという事実と、上の企業側の数字は、方向が一致しています。
ですから、まず「わからない」を消そうとしなくて大丈夫です。全体が分からなくても、部分は確かめられます。紙を1枚用意して、縦に3本線を引いてください。左から「担当業務」「評価面談」「研修・異動・公募」と書きます。次の章で、この3列を埋めていきます。
続く・途切れる・戻るを、3点で見分ける
判定に年齢は使いません。30代で途切れる方も、50代で初めて途切れる方も、40代で戻る方もいます。年代は局面を決めません。
担当業務|半年前と比べて、範囲・難度・責任が動いたか
「やりがいがあるか」ではなく、扱っている仕事そのものを見ます。具体的には、半年前と現在で次の3つを比べます。
担当している案件・顧客・領域の数と種類
自分の判断だけで決められる範囲(金額、スケジュール、対外的な回答)
トラブルや例外が起きたときに、最初に相談される相手が自分かどうか
3つとも変わっていない、または増えているなら「続く」寄りです。3つとも減っているなら「途切れかけている」寄りです。
減った理由が、時短勤務や残業免除の利用と同時期であることもあります。ここは分けて考えてください。勤務時間を短くすることと、担当する仕事の中身を軽くすることは、本来は別の論点です。
過去の職務を書き出す作業そのものが難しいときは、社会人の自己分析のやり方をまとめた記事も参考になります。
評価面談|次に期待されている役割が、言葉で示されたか
見るのは評価点ではなく、面談で使われた言葉です。次の2つが示されているかを確認します。
現在の自分に期待されている役割
次の役割に進むために必要な経験
両方が言葉で示されているなら「続く」寄りです。片方も示されないまま期が終わっているなら、「途切れかけている」の材料になります。
参考までに、先ほどの調査では、育児休業または産後パパ育休を取得した女性正社員669人のうち、育休取得前に復職後のキャリアについて説明・相談があったのは28.4%でした。説明・相談がなかったのは14.3%、そもそも面談自体をしていないのが46.6%です。育休中・取得直後になると、面談をしていない割合は53.5%に上がります。
面談の記録が手元にない、そもそも面談がなかった。その場合も判定はできます。「面談が行われていない」こと自体が、書き込める事実だからです。空欄のままにせず、「なし」と書いてください。
研修・異動・公募|案内が届いているか
3つ目は、機会の対象になっているかどうかです。
社内研修の案内が自分に届いているか
社内公募や異動希望の面談の対象に入っているか
新規案件の立ち上げメンバーの候補に挙がったことがあるか
これらは、上司の評価より前の段階で決まっていることがあります。案内が届かなくなった時期と、働き方を変えた時期が重なっているなら、それは記録しておく価値があります。
判定の読み方と、つまずいたときの分岐
3列を埋めたら、次のように読みます。ただし先に断っておくと、以下は行政が定めた判定基準ではありません。公表資料をもとに、読者が自分で確認しやすくするために編集部が整理したものです。厚生労働省などがこの区分を示しているわけではありません。
- 01
3点とも維持または増加
続いている局面です。次に確かめるのは、半年後に同じ3列がどう変わるかです。
- 02
1〜2点が減少
途切れかけている局面です。減った項目が、働き方の変更と同時期だったかを確認します。
- 03
3点とも減少、または雇用形態そのものが変わった
途切れている局面です。この段階では、次章の「会社側に確認できること」から入ります。
- 04
離職中、または縮小した働き方から広げようとしている
戻ろうとしている局面です。次章の公的制度が、選択肢を増やす材料になります。
ここで詰まりやすい場面が3つあります。
1つ目は、調べても情報が出てこないときです。評価面談の記録がない、研修案内の履歴が残っていない。この場合、「情報がない」ことをそのまま書き込んでください。記録が残らない運用であること自体が、判断材料になります。
2つ目は、聞いても答えが返ってこないときです。「次の役割に進むために、いま足りない経験は何ですか」と尋ねて、具体的な答えが返らないことがあります。この質問に答えが返るかどうかは、それ自体が情報です。1回で判断せず、次の面談でもう一度同じ質問をして、2回とも返らなかったかどうかで見てください。
3つ目は、すでに動いたあとだったときです。もう時短にした、もう退職した、もうパートに変えた。その場合、判定は「戻ろうとしている」から始めます。過去の選択を評価し直す必要はありません。次の章で扱う制度は、離職後や在職中のパート勤務からでも使えるものが含まれています。
最後に一つ、通念を確かめておきます。同じ調査では、希望するキャリア形成のイメージを、入社直後・第一子を持つ前・現在の3時点で聞いています。「自分なりのペースで専門性を高めたい」は入社直後19.0%、第一子前18.7%、現在18.8%。「できるだけ早いペースで管理職等に昇進したい」は8.6%、7.6%、7.1%。報告書は、時点間で大きな変化はみられないと記しています。
働き方が変わっても、希望そのものは大きく動いていない。判定して「途切れかけている」と出たとしても、それは意欲が下がった結果とは限りません。
判定のあとに、使えるもの
判定はゴールではありません。3列の結果によって、次に確かめる先が変わります。
会社側に、確認できることがある
同じ企業調査では、短時間勤務制度の利用者が担う業務についての方針も尋ねています。最も多かったのは「業務内容・責任等はそのままで、業務量を減らす方針」で61.9%。「より簡易な業務内容・責任等へ転換したうえで、業務量も減らす方針」は8.6%でした。
つまり、企業側の方針としては、責任の中身まで下げることを標準にしている会社のほうが少ないということです。担当業務が実際に軽くなっている場合、それが会社の方針なのか、現場の運用でそうなっているのかを、確認する余地があります。
一方で、評価の設計まで踏み込んでいる会社は2割ほどにとどまります。短時間勤務や残業免除の利用者について、管理職に求めていることを尋ねた設問では、「時間あたりの成果で評価するなど、制度利用が不利に働かないように人事評価をすること」は21.5%でした。従業員51〜100人では18.6%、1,001人以上では38.7%と、規模によって差があります。
確認するときは、制度の有無ではなく運用を聞きます。「時短制度はありますか」ではなく、「時短を使っている人は、いまどの業務を担当していますか」「評価の目標値は勤務時間に応じて調整されますか」と聞くほうが、返ってくる情報が具体的になります。
仕事から離れる期間があっても、使える制度がある
「戻ろうとしている」と判定した場合、あるいはこれから離れる可能性がある場合に、知っておくと選択肢が増える制度が2つあります。
一つは教育訓練給付です。一般教育訓練給付の場合、離職者は原則として資格喪失日の翌日から受講開始まで1年以内という要件がありますが、妊娠・出産・育児・疾病・負傷などで30日以上受講を開始できない日があるときは、その日数分(最大19年まで)を延長でき、適用対象期間は最大20年以内になります。給付額は教育訓練経費の20%、上限10万円です(20%相当額が4千円を超えない場合は支給されません)。延長の申請先は、住所地を管轄するハローワークです。要件の詳細は、厚生労働省の「Q&A~一般教育訓練給付金~」で確認できます。
もう一つは求職者支援制度です。雇用保険を受給できない離職者などが、月10万円の職業訓練受講給付金を受けながら無料の職業訓練を受けられます。給付金の主な要件は、本人収入が月8万円以下、世帯全体の収入が月30万円以下、世帯全体の金融資産が300万円以下などです。給付金の要件を満たさない場合でも、訓練自体は無料で受講できる場合があります。
この制度で押さえておきたいのは2点です。訓練コースのなかには託児サービスを利用できるものがあること。そして、対象は離職者だけではなく、一定額以下の収入でパートタイムで働きながら正社員への転職を目指す方も含まれることです。訓練期間は2か月から6か月で、より長い公共職業訓練もあります。
なお、訓練実施日すべてに出席することが要件ですが、やむを得ない理由で欠席し証明できる場合は8割以上の出席で足りるとされ、育児・介護を行う方については証明ができない場合も含めるとされています。
「確認したら、特に問題なかった」も結論です
3列を埋めた結果、担当業務も評価面談も研修機会も維持されていた。この場合、何かを変える必要はありません。
判定の目的は、動く理由を見つけることではなく、動くべきかどうかを事実で決められる状態になることです。「いまのままでいい」と自分で言えるようになったなら、それは十分な到達点です。半年後にもう一度同じ3列を埋めれば、変化があったかどうかが分かります。
現職と異動と転職を並べて比べたくなったときは、4つの選択肢を1枚の表で比べる手順をまとめた記事があります。設計そのものを一から描き直したいときは、女性のキャリアデザインの記事も合わせて読んでみてください。
media.MOREARIAでは、働き方を自分の歩幅で選び直してきた女性たちの物語を届けています。判定の結果が「続いている」でも「途切れかけている」でも、その先の選び方は一つではありません。同じように迷いながら決めてきた人の話は、自分の現在地を言葉にするときの手がかりになります。
よくある質問
キャリア形成について、判定を進めるときによく寄せられる質問をまとめました。
キャリア形成は、何歳までに考えておくべきですか?
年齢の基準を定めた公的なルールは確認できません。この記事で年代別に整理していないのも同じ理由です。判定に使うのは年齢ではなく、担当業務・評価面談・研修や公募の対象という3点の変化です。
時短勤務にすると、キャリア形成は止まりますか?
一律には言えません。厚生労働省の委託調査では、短時間勤務の利用者について「業務内容・責任等はそのままで、業務量を減らす方針」の企業が61.9%でした。また、小学校4年生未満の子を育てながら働き、実際に短時間勤務や所定外労働の制限を利用した女性正社員387人への調査では、仕事のレベルが「変わらない」が54.8%です。勤務時間の変更と、責任・評価・能力開発機会の変更は分けて確認するのが実務的です。
ブランクがあると、キャリア形成はやり直しになりますか?
中断期間の長さだけで決まるものではありません。中断前に何を担当し、何を判断していたかを書き出せていれば、それは現在の求人要件と比べられる材料になります。また、教育訓練給付の適用対象期間には延長の仕組みがあり、求職者支援制度は離職者だけでなく在職中のパート勤務からも対象になる場合があります。
まとめ|キャリア形成は、年代ではなく局面で見る
キャリア形成が進んでいるかどうかは、気持ちでは判定できません。判定できるのは、担当業務・評価面談・研修や公募の対象という、外側から確認できる事実です。最後に、この記事の要点を振り返っておきましょう。
「わからない」は最も多い回答であり、38.1%を占めていた
会社側も、キャリア形成支援として「特に何もしていない」が28.4%
判定は年代ではなく、続く・途切れる・戻るという局面で行う
判定のあとには、会社に確認できることと、公的に使える制度がある
紙1枚と3列。今日できるのは、それだけで構いません。全体が見えなくても、3つの事実は今夜のうちに書き出せます。書き出したものは、半年後にもう一度同じ形で埋めれば、そのまま比較になります。今夜、紙を1枚出して3列を書く。それだけでも、あなたの現在地は言葉になります。あなたの心地よい一歩を、応援しています。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(令和8年3月)
- 厚生労働省「第12次職業能力開発基本計画」(令和8年3月31日厚生労働省告示第169号)
- 職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)
- 厚生労働省「Q&A~一般教育訓練給付金~」
- 厚生労働省「求職者支援制度のご案内」
SUPERVISED BY
akina
MOREARIA 代表 / 編集長
MOREARIA編集長。「やりたいことはあるけど、踏み出せない」女性に向けて、挑戦する人たちのリアルな物語と、自分らしい一歩を考えるきっかけを届けるメディアを運営。マーケティング支援事業や実践型スクール「MOREARIA LAB」も展開している。
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