この記事でわかること
- 「経営者になりたい」という気持ちに、何が混ざっているのかを切り分ける4つの問い
- 欲しいのが「経営者という立場」なのか「決められる裁量」なのかを分ける方法
- 会社を辞めずに、どちらなのかを確かめる具体的なやり方
- 向き不向きを先に考えると、なぜ答えが出なくなるのか
「自分は経営者に向いているんだろうか」。そう検索した人が最初に出会うのは、たいてい「成功する女性経営者の特徴」のような記事です。読んで、いくつか当てはまって、いくつか当てはまらない。それで結局、何も決まらないまま画面を閉じる。
向き不向きは、事前には完全に分かりません。リスクへの耐性やこれまでの経験からある程度は推し量れますが、まだ何も始めていない段階で判定しようとすると、判断材料が足りないので答えが出ないままになります。
この記事では、向き不向きより先に決めるべきことを扱います。あなたが欲しいのは「経営者という立場」なのか、それとも「自分で決められる裁量」なのか。読み終える頃には、自分がどちらを求めているのかが分かって、今週やることが1つ決まっているはずです。
「経営者になりたい」の中身を、4つの問いで分けてみる
「経営者になりたい」と一言で言っても、その中身は人によって違います。まずはそこを分けます。
向き不向きを先に考えると、なぜ答えが出ないのか
向き不向きを判定するには、比べる対象が必要です。「決断力がある人が向いている」と言われても、自分に決断力があるかどうかは、実際に決断する場面に立ってみないと分かりません。
つまり、向き不向きの判定は、実際に動いてみて初めて分かる部分がかなり大きいということです。それを先に済ませようとするから、結論が出ないまま時間が過ぎます。
順番を変えます。先に決めるのは、自分が何を欲しがっているのかです。ここが決まれば、次にやることが自動的に決まります。
4つの問いで、欲しいものを切り分ける
ここから示す4つの問いは、心理検査のような診断ではなく、編集部が読者の相談内容をもとに整理した簡易的なフレームです。当てはめて終わりにするのではなく、自分の言葉を探すきっかけとして読んでみてください。
- 01
自分のお金を投じて、事業のリスクを負いたいか
負ってもいいなら、創業や事業承継が視野に入ります。負いたくないなら、まず社内での役割を考えるほうが合っています。
- 02
やりたい事業が、具体的にあるか
あるなら、それを試すところから始まります。ないなら、「経営そのものがしたい」のか、別の何かなのかを確かめる必要があります。
- 03
今の会社の事業は嫌いではないが、決められないことが不満か
そうなら、独立より社内で決定権を持つほうが、望みに近い可能性があります。
- 04
ゼロから作るより、すでにある顧客や社員を引き継ぐほうが魅力的か
そうなら、事業承継という選択肢があります。
HINT
答えが出なかった問いを、1つだけメモする
4つを読んで、すぐに答えが出なかった問いはどれでしたか。答えが出なかった問いこそ、あなたがいま止まっている場所です。先に進む前に、その1つだけ書き留めておいてください。
4つの答えが指し示すもの
01と02にYESが並ぶなら、あなたが欲しいのは「自分の事業」です。この場合、次の章より、その次の章のほうが役に立ちます。
03にYESなら、欲しいのは「決定権」である可能性が高いです。会社を辞めることが目的ではなかった、というケースはよくあります。04にYESなら、事業を作ることより、事業を動かすことに関心があります。承継という道が現実的です。
どれもピンとこない場合も、それは失敗ではありません。「まだ欲しいものが言葉になっていない」という状態が分かっただけで、前より一歩進んでいます。
なお、この記事では「経営者に向いている人の特徴」そのものは扱いません。資質の面から整理したい場合は、女性経営者に共通する特徴と身につけ方を別の記事で扱っています。
「決められる立場が欲しい」だけなら、今の会社でも試せる
さきほどの03にYESだった人へ。ここは、あなたのための章です。
会社の中でも、経営に近い経験は取れる
決定権が欲しいという感覚は、独立しなくても満たせることがあります。試せるのは、たとえばこういう経験です。
予算を持つ
部門の損益に責任を持つ
採用を判断する
価格を決める
外注先を選ぶ
新規事業を担当する
このうちいくつかを実際にやってみて、満足するなら、あなたが欲しかったのは会社を所有することではなく、判断する立場だったということです。逆に、やってみても物足りないなら、そのときは独立を考える材料が増えています。どちらに転んでも、判断材料が増えます。
ただし、役員登用は会社の意思に左右される
現実的な数字も置いておきます。帝国データバンクが2026年7月に実施した調査(有効回答1万518社)によると、今後、女性役員が増えると見込んでいる企業は10.8%でした。女性役員が一人もいない企業は51.5%です。
待っていれば順番が来る、という前提は成り立ちにくいということです。
一方で、上場企業では景色が違います。内閣府男女共同参画局の女性役員情報サイトによると、2025年7月末時点で全上場企業の女性役員比率は14.0%です。自分の会社がどちら側なのかは、調べれば分かります。
この章で伝えたいのは、社内ルートを諦めましょうということではありません。待つのではなく、確かめてから決めましょうということです。
その不満は、収入のことではないか
もう1つ、混ざりやすいものがあります。収入への不満です。
「もっと裁量が欲しい」と感じているとき、実は「働きに見合う報酬が欲しい」だったというケースがあります。この2つは、解決策がまったく違います。裁量なら役割の交渉、収入なら評価制度や転職の話になります。
もし収入のほうが本音に近いなら、女性の年収を上げる方法を整理した記事のほうが、近道になるかもしれません。
辞めるつもりだった人が、辞めなかった話
ひとつ、想定ケースを挙げます。
30代後半の女性が、勤務先で企画の仕事をしていました。提案は通るのに、予算も人員も自分では決められない。「この会社にいても仕方がない」と考えて、独立の情報を集めはじめます。半年ほど、案内を眺めては閉じる日が続きました。
あるとき、上司との面談で試しに「来期の予算を持たせてもらえませんか」と言ってみます。すぐには通りませんでしたが、翌期に小さな枠を任されました。決められる範囲が広がってみると、辞めたいという気持ちは薄れていきました。
彼女が欲しかったのは、会社を持つことではなく、決められる範囲だったわけです。半年かけて集めた独立の情報は無駄になったように見えますが、そうではありません。比べる対象があったから、自分の望みが分かったのです。
「自分の事業を持ちたい」なら、辞めずに確かめられる
01と02にYESだった人へ。ここからは、実際に確かめる方法です。
まず、1人に有料で買ってもらう
アンケートで「あったら使いますか」と聞いたときの回答と、実際の購買行動は一致しないことがあります。需要を確かめる材料としては、実際にお金が動いたかどうかのほうが強いということです。
だから最初にやることは、想定する相手に話を聞き、そのうちの誰か一人に実際にお金を払ってもらうことです。人数はあくまで目安ですが、10人ほどに声をかけて1件、くらいの規模から始めると動きやすくなります。金額は小さくて構いません。売れたかどうかではなく、「自分がその過程に耐えられるか」を見ます。
断られるのが想像以上につらい人もいれば、思ったより平気な人もいます。これは、やってみないと分かりません。副業として、在職中に確かめられます。
欲しいのは自由か、それとも事業か
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度「新規開業実態調査」(同公庫の融資先のうち開業後1年以内の企業が対象、調査全体の回収数は2,165社)によると、開業した理由についての設問(有効回答2,136社)で最も多かったのは「自由に仕事がしたかった」で59.7%、次いで「収入を増やしたかった」が44.9%、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が41.1%でした。
上位に並んだのは、いずれも働き方や収入、経験の活かし方に関するものでした。少なくとも、多くの開業者にとっての出発点は「自由」「収入」「経験を生かすこと」だったと読み取れます。
自由が欲しいだけなら、フリーランスという形もあります。事業という仕組みを持ちたいのかどうかは、独立か会社員かとは別の軸です。この切り分けについては、独立と自由を分けて考える記事も参考になります。
踏み出したあとに、実際に起きること
きれいな話だけを書くつもりはありません。
同じ日本公庫の調査では、開業について「総合的にみて満足」と答えた人は74.8%でした。ただし項目別に見ると、ワークライフバランスへの満足は54.7%、事業からの収入への満足は28.3%です。
つまり、総合的には満足している人が多い一方で、収入面まで満足している人は3割に届きません。この差は、開業を考えるうえで知っておく価値があります。
さらに同じ調査では、調査対象となった開業者のうち、それ以前に経営の経験があった人は13.6%にとどまります。多くの人が、初めての状態で始めているということです。準備が完璧になる日は来ません。
半年後、判断材料が増えている状態をつくる
最後に、これからの半年をどう使うかです。
1年考えるのと、1年試すのは違う
「いつか起業したい」と思うだけで1年過ごすと、1年後の判断材料は今日と同じです。迷いだけが厚くなります。
一方、副業で1件売った、社内で予算を持たせてもらえないか聞いた、譲渡案件を10件見た、という1年なら、判断材料は確実に増えています。決断していなくても構いません。材料が増えていれば、その1年は無駄になっていません。
急ぐ必要もありません。日本公庫の同じ調査では、対象となった開業者の平均年齢は43.9歳でした。少なくとも、30代や40代から考えはじめるのでは遅い、ということはなさそうです。
今週やることを、1つだけ決める
たくさんやろうとすると、結局どれも始まりません。1つだけにしてください。
決定権が欲しいと思った人
上司に、予算や採用の判断を任せてもらえないか聞く日を決める
自分の事業を持ちたい人
話を聞く相手を3人書き出す
引き継ぐことに惹かれた人
公的な事業承継の窓口が扱う案件情報を10件見る
まだ分からない人
4つの問いのうち、答えが出なかったものを紙に書く
どれも、今週のうちに終わります。
よくある質問
経営者になるかどうかを考えるとき、検索されることの多い疑問に答えます。
経営者に向いている人の特徴はありますか
特徴として語られるものはありますが、それだけで答えが出ることは多くありません。決断力や行動力は、実際に決断や行動をする場面に立ってみて初めて分かる部分が大きいためです。特徴の面から整理したい場合は、別の記事で扱っています。
何歳までに決めないといけませんか
期限を示す公的なデータはありません。日本政策金融公庫総合研究所が同公庫の融資先を対象に行った2025年度調査では、開業時の平均年齢は43.9歳で、40歳代が36.9%と最も多くなっています。年齢を理由に選択肢が閉じるという事実は、数字からは見えません。
試してみて「やっぱり違う」となったら、失敗ですか
失敗ではありません。「自分は経営者になりたいわけではなかった」と分かることは、迷い続ける状態より前に進んでいます。決めないまま数年を過ごすことのほうが、選択肢を減らします。
MOREARIAでは、迷いながら自分の立ち位置を選び直してきた女性たちのインタビューを掲載しています。順調だった話だけではなく、止まっていた時間も含めた物語が、あなたが次の一歩を決めるときの材料になるはずです。
まとめ|向き不向きは、動いたあとに分かってくる
この記事の要点を整理します。
向き不向きは事前に完全には測れないので、先に「何が欲しいのか」を決める
「経営者という立場」と「決められる裁量」は別のもので、必要な行動が違う
どちらなのかは、会社を辞めずに確かめられる
決断ではなく、半年後に判断材料が増えている状態をつくればいい
4つの問いのうち、答えが出なかったものはありましたか。あるなら、それが今のあなたの位置です。分からないことが分かった状態は、何も考えていない状態とは違います。
そして今週、1つだけ動いてみてください。上司に聞く日を決める。話を聞く相手を書き出す。案件を10件見る。どれも小さなことです。
経営者になった人の多くも、最初から確信があったわけではありませんでした。日本公庫の調査でも、対象となった開業者のうち経営の経験があった人は13.6%です。多くが、初めての状態から始めています。
答えを今日出す必要はありません。あなたの歩幅で、材料を増やしていけば十分です。
参考資料
- 帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2026年)」(2026年8月21日)
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日)
- 内閣府男女共同参画局「女性役員情報サイト」
SUPERVISED BY
akina
MOREARIA 代表 / 編集長
MOREARIA編集長。「やりたいことはあるけど、踏み出せない」女性に向けて、挑戦する人たちのリアルな物語と、自分らしい一歩を考えるきっかけを届けるメディアを運営。マーケティング支援事業や実践型スクール「MOREARIA LAB」も展開している。
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