この記事でわかること
- 「止まった気がする」の根拠が、年収と肩書だったのかどうかを分ける方法
- 時短や残業免除を使った女性387人のうち、仕事のレベルが「変わらない」と答えた割合
- 出産の前後で、希望するキャリア形成のイメージがどれだけ動いたか
- 自分で決められることと、自分だけでは決められないことの線引き
「キャリアが止まったように感じる理由」を調べると、ライフイベント、評価制度、ロールモデルの不在といった説明が出てきます。たぶん、もう読んだと思います。
それでも判断がつかないのは、説明が間違っているからではありません。その説明が自分の話なのかどうかが、まだ分かっていないからです。一般論は、自分の現状に当てはまるかどうかを教えてくれません。
仕事と育児の両立がキャリア形成にどう影響するか。厚生労働省の委託調査で、女性正社員1,000人のうち最も多かった答えは「わからない」で38.1%でした。この記事では原因を並べません。「止まった」と感じた根拠が、年収と肩書だったのか、それ以外だったのかを言い分けるところまでを扱います。
「止まった気がする」の中身を分ける
最初に一つ、作業をしてもらいます。紙でもスマホのメモでも構いません。
「年収」「肩書」と書いて、その2つを線で消してください。そのうえで、いま自分の仕事について言えることを3つ書き出します。
何も書けなかったとしても、それは「止まっている」ことの証拠ではありません。この2つ以外を見てこなかった、という結果です。多くの職場で、本人に定期的に伝えられる情報が年収と等級に偏っているので、それ以外の変化は記録に残りにくくなります。
そのうえで、「止まった気がする」という感覚を分解します。以下の4分類は公的な区分ではなく、感覚を整理するために編集部が設けたものです。厚生労働省などがこの分け方を示しているわけではありません。
- 01
実際に下がったものがある
担当していた案件から外れた、決められる範囲が狭くなった、研修の案内が来なくなった。事実として確認できる変化です。
- 02
上がるはずだったものが、上がらなかった
同期と比べて等級が動かない、想定していた時期に昇進しなかった。基準は自分の外側にあります。
- 03
何も変わっていないことが不安
下がってはいないけれど、積み上がっている実感もない。この場合、確かめるべきなのは変化ではなく、変化を伝える仕組みの有無です。
- 04
判定する材料が、そもそも手元にない
評価面談の記録がない、上司から次の役割を言われたことがない。この状態は、01〜03のどれとも違います。
HINT
4つのうち、どれだったかを言葉にしてみる
「止まった気がする」と感じた場面を一つだけ思い出してください。そのとき下がっていたのは、担当していた仕事でしたか。それとも、上がるはずだった等級のほうでしたか。あるいは、どちらでもなく「言われていない」だけでしたか。
4つは、こう分かれます。年収と肩書の話は02だけです。01と03は、それ以外が動いているかどうかの話。そして04は、どちらでもありません。判定する材料そのものが手元にない状態です。
04だった方は、後半の「自分の判断で動かせるもの」の一つ目に進んでください。材料がないなら、まず材料をつくるところからです。何が起きたかを書き残していない状態では、下がったのかどうかも判定できません。
01か03だった方は、次の章に進みます。この線が引けた時点で、この記事の目的の半分は終わっています。
過去の職務を書き出す手が止まる場合は、自分軸がないと感じる理由を扱った記事も、切り口が近いかもしれません。
年収と肩書以外に、動いているものがある
ここからは、01と03に当てはまった場合の話です。「下がった」と感じているものが、実際にどう動いているのかを確かめます。
厚生労働省の委託調査では、育児のための短時間勤務制度や所定外労働の制限を実際に利用した女性正社員387人に、利用によって何が変わったかを聞いています。対象は、小学校4年生未満の子を育てながら働いている方です。
- 01
業務量は「変わらない」が50.1%
「減った」は28.4%、「増えた」は21.4%でした。半数は量そのものが動いていません。
- 02
仕事のレベルは「変わらない」が54.8%
「下がった」は23.0%、「上がった」は22.2%でした。下がった人より、変わらなかった人のほうが倍以上います。
- 03
下がった人と上がった人が、ほぼ同数
仕事のレベルについては23.0%と22.2%で拮抗しています。この調査で言えるのは、制度を利用した人のあいだでも結果が一様ではなかった、というところまでです。
この数字を「だから大丈夫」という意味で出しているのではありません。実際に下がった方が2割を超えているのは事実です。伝えたいのは別のことで、時短を利用したという事実だけから、仕事の中身が下がったと一律に判断することはできないということです。
だから、自分の場合はどうだったのかを、個別に確かめる必要があります。制度を使ったという事実から結論を先取りすると、実際には変わっていなかったものまで「下がった」に数えてしまいます。
希望するキャリア形成のイメージは、あまり動いていない
同じ調査では、希望するキャリア形成のイメージを、入社直後・第一子を持つ前・現在の3時点で聞いています。
自分なりのペースで専門性を高めたい:入社直後19.0%/第一子前18.7%/現在18.8%
できるだけ早いペースで管理職等に昇進したい:8.6%/7.6%/7.1%
特に考えていない:21.8%/21.6%/21.0%
報告書は、時点間で大きな変化はみられないと記しています。入社直後・第一子を持つ前・現在を比べても、希望するキャリア形成のイメージの構成は大きく動いていません。
この調査が聞いているのは「希望するキャリア形成のイメージ」であって、日々の仕事に対する意欲そのものではありません。そこは分けて読む必要があります。そのうえで言えるのは、育児をすると女性全体のキャリア希望が大きく変わる、という一般化は、この調査からは支持されないということです。
これは集団全体の構成比の話なので、一人ひとりの気持ちがどうかまでは分かりません。ただ、「みんなそうなるものだ」という前提だけは外して考えられます。
自分で決められることと、そうでないことを分ける
もう一つ分けておきたい線があります。自分の判断で動かせるものと、自分だけでは動かせないものです。
同じ事業の企業調査では、短時間勤務制度などを利用する正規労働者に対して、キャリア形成のための取組・支援として行っていることを企業に尋ねています。全国の従業員51人以上の企業5,000社に配付し、765社から回答を得た調査です。最も多い取組は「制度利用者本人と上司・人事部門等との面談」で36.9%。一方、「特に何もしていない」は28.4%でした。
第12次職業能力開発基本計画も、労働者個人が単独でキャリアを考えることが難しくなってきていると記しています。
つまり、自分の努力だけで動かせる範囲は、もともと限られています。それは能力の問題ではなく、仕組みの話です。以下の切り分けは、行政が示した区分ではなく、公表資料をもとに編集部が整理したものです。
自分の判断で動かせるもの
これまで担当した仕事を書き出しておくこと
上司に「次の役割に必要な経験は何か」と質問すること
社内公募や異動希望を出すこと
求人票を見て、自分の経験がどこまで通用するか確かめること
自分だけでは動かせないもの
上司が業務をどう配分するか
評価制度と昇格の要件そのもの
時短勤務者が研修や公募の対象に入るかどうか
制度が実際にどう運用されているか
右側に当てはまるものを「自分の努力不足」として数えないでください。数え間違えると、動かせるはずの左側に手が回らなくなります。
「戻る」の入口は、一つではありません
キャリアが途切れる理由を、出産や介護だけだと考えている方もいるかもしれません。実際にはそうとは限りません。
ここから挙げるのは統計的な根拠ではなく、一例です。Yahoo!知恵袋には、2024年12月に投稿された相談があります。投稿者は、本文に40代女性と明記しています。長年正社員として働いたあと、知人の個人事業で働く予定を立てて退職したものの、相手の急病で話が白紙になった。翌月から未経験の福祉系のパートをフルタイムで始めながら、並行して正社員を探したいという内容です。悩みの中心は、退職の経緯を履歴書にどう書くかでした。
途切れ方も、戻り方も、一つの型に収まりません。この方の場合、中断の理由は育児でも介護でもありませんでした。それでも確かめることは同じで、中断前に何を担当し、何を判断していたかを書き出せているかどうかです。
40代で応募が続いていて先が見えないときの考え方は、40代女性の転職が決まらないときを扱った記事で別に整理しています。設計そのものを描き直したいときは、女性のキャリアデザインの記事もあります。
media.MOREARIAでは、働き方を自分の歩幅で選び直してきた女性たちの物語を届けています。止まったように見える時期をはさんだ人も、そうでない人もいます。他の人がどこで線を引いたのかを知ることは、自分の線を引くときの手がかりになります。
よくある質問
分けたあとに出てくることの多い質問をまとめました。
上司に聞いても、はっきりした答えが返ってきません。どうすればいいですか?
答えが返らないこと自体を、記録しておいてください。「次の役割に必要な経験は何ですか」という質問に具体的な答えが返るかどうかは、その職場が個人のキャリアをどう扱っているかを示す情報になります。1回で結論を出さず、次の面談でもう一度同じ質問をして、2回とも返らなかったかどうかで見るのが現実的です。
時短を選んだのは自分です。それでも後悔していいのでしょうか?
選んだことと、その後に起きたことは分けて考えられます。厚生労働省の委託調査では、短時間勤務等を利用した女性正社員387人のうち、仕事のレベルが「下がった」は23.0%、「変わらない」は54.8%でした。結果が人によって分かれている以上、起きたことのすべてが選択の必然だったとは言えません。何が実際に変わったのかを確かめてから、評価し直しても遅くありません。
一度分けたあと、いつ確かめ直せばいいですか?
公的に決められた間隔はありません。目安を置くなら、半年に一度、同じ項目で書き直すと変化が見えます。担当業務・評価面談で言われたこと・研修や公募の案内という3つを、同じ形で書き残しておくと比較しやすくなります。
まとめ|分けられれば、次に何を確かめるかが決まる
「止まった気がする」は、そのままでは動かせません。中身を分けると、確かめる先が決まります。最後に、この記事の要点を振り返っておきましょう。
感覚の中身は4つに分かれ、年収と肩書で説明できるのはそのうち1つ
時短等の利用者387人のうち、仕事のレベルが「変わらない」は54.8%
希望するキャリア形成のイメージは、出産の前後で大きく動いていない
動かせないものを「努力不足」に数えない
止まっているかどうかを、いま決める必要はありません。決めるより先に、分けることのほうが役に立ちます。今日、年収と肩書に線を引いて、それ以外に言えることを3つ書き出してみる。それだけでも、感覚は言葉に変わります。あなたの心地よい一歩を、応援しています。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(令和8年3月)
- 厚生労働省「第12次職業能力開発基本計画」(令和8年3月31日厚生労働省告示第169号)
SUPERVISED BY
akina
MOREARIA 代表 / 編集長
MOREARIA編集長。「やりたいことはあるけど、踏み出せない」女性に向けて、挑戦する人たちのリアルな物語と、自分らしい一歩を考えるきっかけを届けるメディアを運営。マーケティング支援事業や実践型スクール「MOREARIA LAB」も展開している。
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