この記事でわかること
- 「開業」と「フリーランス」が、そもそも別のことを指している言葉だということ
- 自分が事業を持ちたいのか、一人で働きたいのかを見分ける3つの質問
- 決められないときに、その理由を4種類に分けて考える方法
- 会社を辞める前に小さく試す手順と、試してはいけないケース
一人で開業できる仕事を調べていると、開業届の出し方も、フリーランスの始め方も、たいていどこかに正しく書いてあります。それでも決まらないことがあります。理由は情報が足りないからではなく、自分が探しているのが「開業」なのか「フリーランス」なのか、まだ自分のなかで分かれていないからかもしれません。
実際、この2つは検索の場面でも混ざっています。「起業して一人でできる仕事は?」と「1人で開業できる仕事は?」が同じ画面に並び、多くの人がその2つを区別せずに使っています。望んでいるものが「自分の店やサービスを持つこと」なのか、「会社を辞めて一人で働くこと」なのかで、次に確認する先は変わります。
この記事では、その2つを分けて考えます。読み終えたとき、自分が事業を持ちたいのか、それとも一人で働ければよいのかを、紙に書いて言い分けられる状態を目指します。どちらが正解という話ではありません。どちらを望んでいるかで、次に取る行動が変わるという話です。
「開業」と「フリーランス」は、同じものとして検索されている
検索窓に「一人で開業できる仕事」と打ったとき、画面の下のほうに関連する質問が並びます。そこには「開業」で始まる質問と「起業」で始まる質問が、同じ列に混ざって出てきます。「1人で生きていける職業は?」という質問が並ぶこともあります。
これは編集部の受け止めですが、この並び方は、多くの人が「開業」「起業」「フリーランス」を厳密に使い分けていないことを示しています。迷っているというより、まだ別のものとして認識されていない、という状態に近いのだと思います。
一人で働き始めること自体は、めずらしいことではありません。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度「新規開業実態調査」によると、開業時の従業者数が「1人」だった企業は42.6%でした(n=1,994)。この調査では従業者数に経営者本人を含むため、実質的に本人だけで始めた人が4割を超えています。ただしこの調査は、同公庫国民生活事業の融資先のうち、融資の時点で開業後1年以内だった企業を対象にしたもので、日本の新規開業者すべてを集計した数字ではありません。女性だけを取り出したものでもありません。
言葉が混ざったままでも、始めること自体はできます。ただ、混ざったままだと確認する先が決まりません。店を持ちたい人が確認するのは営業許可や物件の条件で、一人で働きたい人が確認するのは契約の形と報酬の決まり方です。同じ「独立したい」でも、明日やることが違います。
片方は税務の手続き、もう片方は取引の形
2つの言葉が、それぞれ何を指しているのかを整理します。
「開業」は、事業を始めることを指す一般的な言葉です。ただし個人で事業を始める場合、そこには税務上の届出が関わってきます。国税庁の案内では、新たに事業所得などを生ずべき事業を開始した人が、開業届を税務署に提出することとされています。手続きの話として「開業した」と言うとき、指しているのはこの届出の対象になった状態です。
「フリーランス」は、働き方や取引のあり方を指す言葉です。フリーランスに関する法律では、業務委託の相手方となる事業者のうち、従業員を使用しない個人などが対象として整理されています。実店舗や従業員を持たず、自分の経験や技能で収入を得る働き方、という説明のされ方もします。
ここが混乱の元なのですが、この2つは対立していません。個人事業主として開業したうえで、企業から業務委託を受けてフリーランスとして働く、という形は普通にあります。Webデザイナーなら、顧客から直接デザイン制作を受注するのも、企業から「LPを1枚作ってほしい」と委託されるのも、どちらもありえます。両方を同時に満たしていることもあります。
つまり「開業とフリーランス、どちらを選ぶか」という問いの立て方自体が、少しずれています。選ぶことになるのは、言葉ではなく自分が何を持ちたいのかのほうです。
自分がどちらを望んでいるのかを決める
紙とペンを用意してください。次の3つに、思いつくまま答えを書きます。3分で終わります。なお、これは法律上の区分ではなく、自分の希望を整理するために編集部が用意した簡易チェックです。
- 01
値段を、自分で決めたいですか
自分で価格を決めたいなら、事業を持つ方向です。相場に合った報酬をもらえればよいなら、業務委託でも満たせます。
- 02
お客さんを、自分で集めたいですか
集客まで自分でやりたいなら事業を持つ方向、仕事は紹介や案件サイト経由でよいなら業務委託の方向です。
- 03
名前をつけたいものが、ありますか
屋号や店名、ブランド名を考えたことがあるなら、望んでいるのは事業です。思いつかないなら、働き方のほうを変えたいのかもしれません。
HINT
3つの答えを、声に出して読んでみる
書き終えたら、自分の答えを声に出して読んでみてください。書いているときは論理で考えますが、読み上げると「本当はそこまでしたいわけではない」と気づくことがあります。3つのうち2つ以上に前向きな答えが出たなら、自分の事業を育てたい気持ちのほうが強いのかもしれません。ただし、フリーランスとして働きながら値段も屋号も自分で決めている人もいます。あくまで整理のための目安です。
3つとも「そこまでは望んでいない」だったとしても、それは意欲が足りないという意味ではありません。会社を辞めたい理由が、上司との関係や通勤時間や働く時間帯にあるなら、必要なのは事業を持つことではなく、働き方を変えることです。そのほうが早く、確実に叶うこともあります。
決められないときは、理由を4つに分けてみる
3つの質問に答えても決まらないことがあります。そのときは「勇気がない」で終わらせず、何が不安なのかを分けてみてください。以下は編集部が整理したものですが、不安の種類によって、次にやることが変わります。
法律の不安|資格が要るのか、自宅でやっていいのか分からない
需要の不安|本当にお金を払ってもらえるのか分からない
お金の不安|会社を辞めて生活できるのか分からない
働き方の不安|経営したいのか、一人で働きたいだけなのか分からない
1つ目なら、行政の窓口に電話すれば大半が片づきます。2つ目なら、小さく1件受けてみるのが早い。3つ目なら、いま必要な生活費を計算して、何か月分の蓄えがあるかを数えます。そして4つ目に当てはまるなら、それがこの記事の主題です。上の3つと違って、調べても人に聞いても答えは出てきません。自分がどうしたいかだけが答えになります。
不安が混ざったままだと、全部が「まだ早い」に見えます。分けてしまえば、3つは今週中に手をつけられる作業です。
会社を辞める前に、小さく試す
「副業から小さく始める」はよく言われますが、何をどこまで試せば判断材料になるのかまでは、あまり書かれていません。資格も許可も要らない仕事なら、次の順で試せます。
まず勤務先の副業規定を確認します。次に提供するサービスを1種類だけに決めて、1件受注します。このとき、作業にかかった実際の時間を測っておいてください。報酬から経費を引いて、実働時間で割ると、時給に相当する数字が出ます。ここまでを3件から5件くり返すと、続けられそうかどうかの見当がつきます。
この数字が出た時点で、判断はかなり楽になります。「会社の給料がなくなっても続けたいか」という問いに、感覚ではなく数字で答えられるようになるからです。辞めるかどうかを決めるのは、そのあとで構いません。
ただし1つだけ、注意したいことがあります。許可や資格が必要な行為は、「お試しだから」「無料だから」という理由で実施できるとは限りません。たとえば、転売するために中古品を仕入れて売る古物営業、食品衛生法上の許可や届出が関わる飲食物の提供、美容師法上の美容行為などです。
特に誤解されやすいのが「無料なら大丈夫」という考え方です。美容師法でいう「業」は反復継続の意思をもって行うことを指し、有料か無料かは問われません。一方で、自分が使っていた物を売るだけなら古物商許可は原則として不要で、転売のために仕入れる場合とは扱いが違います。境目は、お金を取るかどうかではなく、行為の中身と反復するかどうかにあります。
この場合の「試す」は、実際に営業することではなく、見込み客に話を聞く、価格を調べる、行政に事前相談して必要な費用と期間を出す、までです。自分の仕事がどちらに当たるかは、女性の起業は何から始める?最初の3ステップと準備もあわせて確認してみてください。
業務委託にしても、許認可は消えない
最後に、勘違いしやすいところを1つ。「開業ではなく業務委託で働くことにしたから、許認可の話は関係ない」とはなりません。
関係するのは契約の形ではなく、実際にする行為の中身です。企業から業務委託された仕事でも、その中身が税務相談なら税理士の資格の問題は残ります。中古品を仕入れて売る作業を請け負うなら、古物営業に当たるかどうかの確認が必要です。「誰から仕事をもらうか」ではなく「何をするか」で決まります。
もう1つ。形の上では業務委託でも、働き方の実態が雇われている人と変わらない場合には、労働関係の法令が適用される可能性があります。厚生労働省も、契約の名称ではなく実態で判断されるという考え方を示しています。時間や場所を細かく指定され、断る自由がないような働き方になっているなら、それは「一人で働く」姿とは違うかもしれません。
望んでいるのが「自由に働くこと」なら、契約の形だけでは手に入らないことがある、ということです。ここまで見たうえで、もう一度3つの質問に戻ってみてください。
MOREARIAでは、働き方を自分で決め直していった女性たちのインタビューを掲載しています。決める前に何を考えていたのか、その過程が、いまの迷いを言葉にする手がかりになるかもしれません。
よくある質問
開業とフリーランスの違いについて、特に多い質問を3つ挙げます。
フリーランスになるなら、開業届は出さなくていいですか
開業届は、事業所得などを生ずべき事業を開始した人が提出するものです。フリーランスとして業務委託で働く場合も、それが事業に当たるなら対象になります。「フリーランスだから関係ない」ということにはなりません。提出期限や取り扱いは国税庁の案内で確認してください。
業務委託で働きながら、自分の商品やサービスを始めることはできますか
できます。業務委託で仕事を受けながら、自分の商品やサービスを少しずつ育てていく形は珍しくありません。なお、業務委託で継続的に仕事を受けている時点で、税務上はすでに事業を始めていると扱われる場合があります。「あとから開業する」というより、すでに始まっているかもしれない、という順序です。扱うものによっては資格や営業許可が必要になるので、商品を売り始める前に確認してください。
3つの質問に答えても、まだ決まりません
決まらないこと自体は問題ありません。この記事で扱った4種類の不安のうち、法律・需要・お金の3つは調べれば片づきます。まずそこを潰してから、もう一度3つの質問に戻ってみてください。3つが片づくと、残るのは自分の希望だけになります。
まとめ
「開業」と「フリーランス」は、どちらかを選ぶものではありません。片方は税務上の手続きを指し、もう片方は取引の形を指しています。選ぶことになるのは、自分が何を持ちたいのかのほうです。この記事でやったことを、もう一度並べます。
2つの言葉が、それぞれ何を指しているのかを分けた
値段・集客・名前の3つの質問に答えて、望んでいる方向を確かめた
決められない理由を、法律・需要・お金・働き方の4つに分けた
辞める前に試す手順と、試してはいけないケースを確認した
紙に書いた3つの答えは、捨てないでおいてください。数か月後に読み返すと、そのときの自分が何を望んでいたのかが残っています。迷いが長引くのは、意志が弱いからではなく、言葉が分かれていないからです。
今日できることは1つです。紙を1枚出して、3つの質問に答えてみてください。3分あれば終わります。
参考資料
- 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」2025年12月
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」関連資料
- 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
- 厚生労働省「美容師法の概要」
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